近年、企業活動が環境や社会に与える影響が問題視されるようになり、ESG(環境・社会・ガバナンス)への配慮が重視されています。特に環境負荷低減は喫緊の課題であり、製品やサービスのライフサイクル全体での環境影響評価が求められています。

こうした状況を受け、製品の環境負荷を定量化するための手法としてカーボンフットプリント(CFP)やライフサイクルアセスメント(LCA)が注目されています。CFPはあらゆる製品に関連する温室効果ガス排出量の合計値を算出し、LCAは製品のライフサイクル全体にわたる環境影響を多角的に評価する手法です。

これらの手法を活用することで、企業は自社製品の環境負荷を正確に把握し、ホットスポットを特定して改善に取り組むことができます。また、環境に配慮した製品開発を行うことで、顧客からの信頼性も高まります。

しかしながら、CFPやLCAの算定および評価には多くの課題が存在します。本記事では、CFPとLCAの概要とともにその課題と、企業における取り組み状況、そして推進に向けた提言について詳しく述べていきます。

1.CFP/LCAとは

1.1 カーボンフットプリント(CFP)

CFPとは、製品のライフサイクル(原材料の調達から製造、輸送、使用、廃棄に至るまでの全過程)における温室効果ガス排出量を CO2換算して算出する指標です。製品1単位当たりの排出量を示すことで、消費者が環境負荷を考慮した製品選択ができるようになります。

CFPの算定手順は、製品のライフサイクルを特定し、各工程の活動データ(エネルギー使用量、原材料投入量等)を収集した上で、排出係数を乗じて温室効果ガス排出量を計算します。最後に全工程の排出量を合算することでCFPが算出されます。

1.2 ライフサイクルアセスメント(LCA)

LCAは、製品のライフサイクル全体にわたる環境影響を定量化し、多角的に評価する手法です。評価対象は温室効果ガス排出量に限らず、資源消費、大気汚染、水質汚濁など幅広い環境影響カテゴリーが含まれます。

LCAは目的と調査範囲の設定、インベントリ分析、環境影響評価、解釈の4つのステップから構成されています。インベントリ分析では各工程の投入物と排出物を定量化し、影響評価では排出物が環境に与える影響を18~20の影響カテゴリー別に評価します。

CFPとLCAはいずれも製品の環境負荷を客観的に評価できる重要な手法です。CFPは温室効果ガス排出量に特化していますが、LCAは幅広い環境影響を網羅できるのが特徴です。
 

2.企業における取り組みの現状

2.1 先進的な大手企業の取り組み

一部の先進的な大手企業では、CFPやLCAの算定と開示に積極的に取り組んでいます。自社製品や事業活動の環境負荷を正確に把握し、ホットスポットを特定して改善に努めています。

例えば食品大手のネスレではCFPの算定と開示を進め、主力製品の環境フットプリントを削減する目標を設定しています。自動車メーカーのフォルクスワーゲンもLCAの手法を導入し、電気自動車の環境負荷評価を行っています。

こうした大手企業は、CFPやLCAの結果を製品開発や事業戦略に活かすとともに、環境経営の一環として外部への情報開示も積極的に行っています。

2.2 中小企業における導入の遅れ

一方、中小企業ではCFPやLCAの導入が遅れがちな状況にあります。手間とコストがかかる点、算定のノウハウ不足が主な要因と考えられます。

また、サプライチェーンを構成する上流や下流の企業でのデータ収集が困難なケースも多く、自社での対応が難しい面があります。

2.3 サプライチェーン全体での取り組みの必要性

製品のライフサイクルを通じた環境負荷を正確に評価するには、原材料の調達から製造、使用、廃棄に至るサプライチェーン全体でのCFPやLCAの推進が不可欠です。

例えば自動車の場合、材料メーカー、部品メーカー、組立メーカーなど複数の事業者が関与しており、一企業だけの対応では限界があります。環境負荷低減に本気で取り組むには、サプライチェーン全体で連携した取り組みが求められます。

3.推進時におけるさまざまな課題


CFPやLCAは製品の環境影響を定量化し、改善ポイントを特定できる有効な手法ですが、実務における様々な課題も存在しています。

3.1 算定の複雑さと手間


CFPやLCAの算定には、製品のライフサイクルを細かく分割し、各工程での活動データを収集する必要があります。特に製造工程での原材料や資源の投入量、エネルギー使用量など、詳細なデータを入手することが難しい場合が多くあります。

また、算定シナリオの設定や係数の選択など、様々な前提条件を検討する必要があり、その過程で主観が入り込む可能性があります。

3.2 データ収集の困難さ

CFPやLCA算定に必要なデータは、自社のみならず、サプライチェーンの上流や下流の企業にも及びます。しかし、取引先の協力が得られずデータが入手できない場合が多々あります。特に中小企業では、データ収集力に乏しいケースが多いでしょう。

3.3  製品範囲の特定の難しさ

製品には多くの部品や素材が使われており、それらの製造から廃棄に至るまでのプロセスを的確に特定することが難しい場合があります。特に電子機器など複雑な製品では範囲設定が困難になります。

3.4 評価基準の統一性の欠如

CFPにしてもLCAにしても、評価の考え方や算定ルールは産業分野ごとに違いがあり、統一的な基準が存在しません。そのため、同一製品でも、算定主体によって結果が異なってしまう可能性があります。

以上のような課題から、CFPやLCAの導入が進まない企業も多く存在する状況です。これらの課題解決に向けた対策が求められています。

4. 推進に向けて〜目的の明確化〜

4.1 Scope3のデータ収集の難しさ

このように取り組み対する重要性は理解できても、Scope3を考慮すると特にCFP対応はより一層難しくなります。

Scope3とは、企業の事業活動に伴う上流と下流での温室効果ガス排出を指します。製品のライフサイクル全体を通じた環境影響を評価するためには、自社の事業活動に加えてScope3の影響も算入する必要があります。

しかしScope3のデータ収集は極めて困難です。原材料の調達や製品の使用・廃棄など、企業の活動範囲を超えた領域でのデータを入手しなければなりません。サプライチェーンを構成する多数の調達先や顧客先の協力が不可欠となります。

特に中小企業にとっては、そうしたデータ収集力に乏しく、Scope3の把握が大きな障壁となっています。また、算定方法や係数の選択など、Scope3の扱いについての標準的なルールも未だ確立されていません。

このようにScope3を含めることで、算定は一層複雑になり、導入の障害が高まります。サプライチェーン全体でのデータ連携体制の構築や、Scope3に関する統一的なガイドラインの策定が急務となっています。

Scope3を無視してはライフサイクル全体の環境影響を正確に評価できません。課題は多いものの、Scope3への対応を前提としたCFP対応が求められているのが実情です。

4.2 目的を明確化する必要性

この記事を読まれている方々は課題が山積する現状の中でも何らかの対応を求められているのが現状だと思われます。
当サイトにもこのようなお悩みを持ち込まれます。

【取引先からの要求】
・主要取引先の大手企業から、サプライチェーンの温室効果ガス排出量の開示を求められる
・グリーン調達の一環として、取引先に対し製品のCFPやLCAデータの提出を義務付ける

【経営層からの指示】
・ESG経営の一環として、具体的な環境対策を求められる

・製品の環境負荷を正確に把握し改善することを経営方針に掲げられる

【消費者の環境意識の高まり】
・消費者の環境配慮志向が高まり、製品の環境影響に関する情報開示が求められる
・CFPラベル表示などで環境負荷が分かる製品を選好する消費者が増える

【法規制への対応】
・カーボンプライシングの導入に伴い、製品のCO2排出量の把握が義務付けられる
・CEマーキングなどの環境ラベルの取得に、LCAデータの提出が必須となる

【企業イメージ向上】
・環境先進企業としてのイメージアップを図るため、自主的にCFP・LCAの情報開示を行う
・ESG投資の評価を意識し、環境側面の情報開示に取り組む

取り組むべき内容に優先順位をつけ、まずは誰に対して何を行うべきかを検討する必要があります。

取り組みたい内容が企業イメージ向上の場合は、統合報告書の内容の見直しやESGに関する情報開示サイトの開設を行う必要が生じます。一方で取引先からの要請であれば、企業全体の情報開示なのか、それとも要請された特定製品のみにスコープを絞ったデータ開示なのかで具体的アクションや、支援するソリューションも大きく変わってきます。
 


当サイトを運営する株式会社INDUSTRIAL-Xでは個別の状況に応じた最適なソリューションをご提案しています。算定の範囲やデータ収集方法、開示の在り方に加え、取り組むべきマイルストーンに対するアクションと共に、単なる課題列挙にとどまらない先を見据えたDXソリューションの策定を行います。

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